特別連載:02『続・蜘蛛の糸』~カンダタと蜘蛛の精ヤアの物語~

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【2・お釈迦様と蜘蛛の精(ヤア)】

 一方、こちらは極楽。時はお昼近くでございます。
 蓮の池には、お釈迦様がたたずんでいらっしゃいます。

 池の上から、その様子をジッとお釈迦様はご覧になられておりましたが、カンダタが元の血の池地獄に堕ちたのを見届けると、悲しそうなお顔をされ極楽の池の縁から、ソッとお離れになられたのでした。

 と、そこへ件(くだん)の蜘蛛がお釈迦様の手のひらに載ってきたのです。
 そして、うやうやしくお辞儀をして‥‥。

蜘蛛の精(ヤア):
「こんにちは。お釈迦様。私は、先ほど地獄へ糸を垂らした蜘蛛の精(ヤア)と申します」

お釈迦様:
「そうでしたか。ヤア、ご苦労様でしたね。せっかくお前が頑張って「命の糸」を出してくれましたが‥‥。それがわからないカンダタのことは、とても残念なことでした‥‥」

ヤア:
「‥‥。お釈迦様。一つお願いがあります」

お釈迦様:
「何ですか? お前の願いとは?」

ヤア:
「もう一度、あのカンダタに「命の糸」を出してやりたいのです」

お釈迦様:
「なぜだね? 「命の糸」を二回も出せば、今度はお前が危なくなるのですよ」

ヤア:
「私のことなど構いません。‥‥。私は地上に生きていたとき、カンダタに命を助けられました。私はあの人が本当は悪人でないことを、知っています。あの人は、本当は慈悲深く優しい性根を持っているのです。今度は私があの人を救いたいのです‥‥」

お釈迦様:
「そうか。お前(蜘蛛の精(ヤア))は何と優しい心を持っているのだろう。お前の慈悲の心を、私は大いに褒めましょう‥‥」
「だがヤアよ。今のカンダタでは、今度もお前の出す「命の糸」は切れてしまうにちがいない。どうだね?」

ヤア:
「お釈迦様の仰られる通りです。今のカンダタでは、また私の出す「命の糸」は切れることでしょう‥‥」
「そこで、私はカンダタの夢に現れ、カンダタに訴えかけたいと思います。その力を私にお与えください。お願いします。お釈迦様!」

お釈迦様:
「そうなのですね。私は、お前のその清い心に打たれました。その力をお前に授けましょう。ですがカンダタに訴えらるのは、一つのことだけですよ。それでもよろしいですか?」

ヤア:
「ありがとうございます、お釈迦様。一つだけで結構でございます」

 ヤアはお釈迦様に励まされ、勇気がみなぎるのでした。ヤアの顔は、決意に満ちています‥‥。

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 やがて蜘蛛の精(ヤア)は魂となって、地獄でもがくカンダタの元へと、降りて行くのでした。

 (つづく)