【『小桜姫物語』から学ぶ真理「29」】

◎ 妖精のこと ③

※ 鎌倉鶴岡八幡宮、大銀杏の精との対話

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【引用文】

指導霊のお爺さん:

 同じ妖精でも、五百年、千年と、
 功労経たるものになると、
 なかなか、思慮分別もあり、
 うっかりすると、へたな人間は、
 敵わぬことになる。

 例えば、あの鎌倉八幡宮の、社頭の、
 大銀杏(※おおいちょう)の、精、
 あれなどは、よほど、老成なものじゃ。

小桜姫:

 お爺さま。
 あの、大銀杏ならば、私も、生前に、
 よく、存じております。

 どうぞ、これから、あそこへ、お連れ、
 ください、ませ。
 一度、その大銀杏の精と、申すのに、
 逢っておきとう、ございます。

指導霊のお爺さん:

 承知いたした。
 すぐ、出かけると、致そう。

小桜姫:

 どこを、どう、通過したか、
 途中は、少しも判りませんが、
 私たちは、たちまち、あの、懐かしい、
 鎌倉八幡宮の、社前に、着きました。

 幅の広い、石段。
 丹塗りの、楼門。
 群がる鳩の群れ。
 それから、あの、大きな瘤(※こぶ)だらけの、
 銀杏の、老木。

 チラと、こちらから、覗いた光景は、
 昔と、さしたる、相違もないように、
 見受けられました。

 私たちは、一応、参拝を済ませてから、 
 直ちに、目的の、銀杏の、木に、近寄りますと、
 早くも、それと、気づいたのか、
 白茶色の、衣装をつけた、
 一人の、妖精が、木陰から、歩み出て、
 私たちに、近づきました。

 身の丈は、七八寸、
 肩には、例の、透明な、羽をはやしておりましたが、
 しかし、よくよく見れば、
 顔は、七十余り、の、老人の顔で、
 そして、手に、一條の杖を、ついておりました。

 私は、一目見て、これが、銀杏の、精だ、と、
 感づきました。

指導霊のお爺さん:

 今日は、わざわざ、これなる女性を、
 連れて来ました。

 お手数でも、何かと、教えてあげて、ください。

 と、老妖精に、挨拶しました。

銀杏の精:

 ようこそ、お出でくだされた。

 (と、笑顔で、迎えてくれました)

 そなた(※小桜姫のこと)は、気づかれなかった、
 であろうが、
 実は、そなたが、まだ、可愛らしい、
 少女姿で、この八幡宮にへ、お詣りなされた当時から、
 ワシは、ようそなたを、存じておる。

 人間の世界と申すものは、
 瞬く間に、移り変われど、
 ワシなどは、幾年経っても、元のままじゃ。

 (と、枯れた、落ち着いた調子で、そう言って、
  老いたる妖精は、つくづくと、私の顔を、
  打ちまもる、ので、ございました。
  私も、なにやら、昔馴染みの、老人にでも、
  巡り会ったような、気がして、懐かしさが、
  込み上げてくるのでした)

 (老妖精は、一層しんみりした、調子で、
  話しを、続けました)

 実を申すと、ワシは、この八幡宮よりも、 
 もっと、古く、元は、ここから、さして、
 遠くもない、とある山中に、住んでいたのじゃ。

 しかるに、ある年、
 八幡宮が、この、鶴岡に、勧請されるにつけ、
 その、

 ◎ 神木(※しんぼく)

 として、ワシが、数ある、銀杏の中から、
 選び出され、ここに、移し植えられることに、
 なったのじゃ。

 それから、数えても、もう、ずいぶんの、
 月日が、積もったで、あろう。

 いったん、神木と、なってからは、
 もったいなくも、この通り、
 幹の周囲に、注連縄が、張り回され、
 誰一人、手さえ、触れようとせぬ。

 中には、八幡宮を拝むと、同時に、
 ワシに、向かって、拝む者さえ、ある。

 これと、申すも、
 みな、神様のご加護、
 お蔭で、よその、銀杏とは、異なり、
 何年経てども、枝も枯れず、
 幹も朽ちず、
 日本国中で、無類の、神木として、
 今もなお、この通り、栄えている、
 ような、次第じゃ。

 つづく

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『小桜姫物語』より、引用抜粋

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読者の皆様へ:今回も、お読みいただき、ありがとうございました。