特別連載:05『続・蜘蛛の糸』~カンダタと蜘蛛の精ヤアの物語~

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【5・息絶えた蜘蛛の精(ヤア)】

 こちらは極楽。蓮の池でございます。

 必死の思いで蜘蛛の精(ヤア)は、「命の糸」を出し続けていました。
 さて、この「命の糸」と申しますのは、蜘蛛にとって一生で一回しか出せないものなのでした。それを二回目の「命の糸」を、必死の思いで蜘蛛の精(ヤア)は出し続けたのです。
 
 ヤアは、疲労困憊。息も絶え絶えになってきました。
 ですが、ヤアの顔は喜びに満ちていました。
 なぜなら、命の恩人カンダタを、今度こそ地獄から救い出せようとしていたからです。カンダタの心が、極楽の心に変わろうとしていること、それがヤアには何よりも嬉しいことなのでした。

 その様子をご覧になったお釈迦様は深くうなずき、ヤアの「命の糸」を強化しようと、お力をお加えなさいました。
 するとなんと「命の糸」が、頑丈な「命の梯子」へと、変わったのです。これはとりもなおさず、お釈迦様からの温かいお慈悲の心の現れなのでした。

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 しかしそのうちに、蜘蛛の精(ヤア)は力を出し尽くし、息絶えてしまいました。もうヤアは動きません。ついにヤアは、死んでしまったのです。

 お釈迦様は、これをとてもお悲しみになり、一筋の涙を落とされたのでした。そしてその涙が、ヤアの身体に触れました。
 するとどうでしょう! ヤアの魂は、蜘蛛としての役目を終え、特別に「人間」の魂として、生まれ変わったのです。
 全ては、お釈迦様の慈悲のお力です。

 お釈迦様は、この蜘蛛の精(ヤア)の献身的な尊い心を愛で、人間へと生まれ変わらせる、ご褒美とされたのです。

 ヤアは、人間の魂になって生き返りました。

ヤア:
「ああ、私はどうしたのだろう! 「命の糸」を出していたら、気が遠くなってしまった。カンダタさんは、どうなったんだろう?」

お釈迦様:
「ヤアよ。気がつきましたか? お前は本当によくやりました。蜘蛛でありながら、その行いは立派でした。」
「お前は、弱肉強食の獣の世界に生きながら、ほかに優しくできる慈悲の心を持ちました」
「ヤアよ。もう蜘蛛は卒業です。今より人間としてお前は修行しなさい」
「そして次は人間として生まれて、その慈悲の心を見せるのですよ!」

ヤア:
「あれっ? 私、人間になっている! お釈迦様! すごい! 私、人間になっている!」
「あっ! それよりカンダタさんはどうなりましたか? カンダタさんのことだけが心配なんです。私の出した「命の糸」は役に立ちましたか?」

お釈迦様:
「ヤアよ。その心配には及びません。」
「カンダタは、後からついてきた亡者たち百人と一緒に、極楽の入り口まで、無事にたどり着きました。お前の出した「命の糸」のお陰ですよ。お前の願いは届いたのです」

ヤア:
「お釈迦様、ありがとうございました。全てお釈迦様のお陰です」

お釈迦様:
「そうではない。お前の尊い慈悲の心が、カンダタのよき心を目覚めさせたのだ。私はちょっと、その手助けをしただけです」
「ヤアよ。お前もこれよりは人間として生まれるのです。お前も極楽の「命の学校」で学び、よき人間として地上に生まれるよう修行しなさい!」

ヤア:
「そうなんですね。私は嬉しいです。今度はいよいよ人間として生まれられるんですね! 私は「命の学校」で学び、人に優しくできる人間になります」

お釈迦様:
「カンダタも、極楽の「命の学校」で、今度こそよい人間として生まれるように修行します。ヤアよ、行って一緒に学んで来なさい!」

ヤア:
「はい。カンダタさんと一緒に学びます。次生まれる時、よい人間になれるように‥‥」

お釈迦様:
「それでよろしい‥‥」

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 お釈迦様は満足げなお顔をされ、蓮の池から御殿へとゆっくりお戻りになられたのでした。

 極楽も、ようやく美しい夕暮れ時となっていました‥‥。
 きらきらと金色に、あたりは輝いております‥‥。

 (つづく)